DXに必要なスキルを徹底解説!「デジタルスキル標準」の活用方法も紹介
更新日:5月31日

デジタル技術の進歩により産業構造が急速に変化しつつある今、多くの企業にとってDX推進は極めて重要な課題だといえるでしょう。しかし、日本ではDX化に後れを取っている企業が少なくありません。その主な理由の一つが、DXを推進する人材が足りないことだといわれています。
そこでこの記事では、DX推進の担当者や経営者、DXを学びたいビジネスパーソンに向けて、以下の内容を解説します。
DXを推進する人材の重要性
「デジタルスキル標準」の概要と活用方法
DX推進に必要な5つの人材累計
DXを推進する人材に求められるスキル
「DX推進スキル標準」の活用例
DXに必要なスキルを知りたい、DX人材を採用・育成したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
▼目次
1.DX推進での人材の重要性
企業がDXを推進する上で、専門性を持つ人材の確保・育成は不可欠です。しかし、単に専門性を持つ人材がいるだけでは、企業のDX推進は実現できません。専門性を持つ人材が活躍するためには、企業全体がDXによる変革を受け入れる必要があるからです。そのためには、経営層を含めすべての従業員がDXに関心を持ち、主体的に取り組もうとする状態を実現しなければなりません。
つまりDX推進のためには、経営層を含むすべてのビジネスパーソンがDXに関するリテラシーを身につける必要があるのです。
2.DX人材育成に活用できる「デジタルスキル標準」とは

今後、DX人材を育成していこうと考えている企業にとって参考になる指針が「デジタルスキル標準」です。デジタルスキル標準は、企業・組織のDX推進を支援するために、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によって取りまとめられました。詳しく見ていきましょう。
2-1.「デジタルスキル標準」の概要
デジタルスキル標準は、企業や組織のDX推進を目的とし、個人の学習や人材の確保・育成の指針として作成されました。大きく分けると以下の2つで構成されています。
DXリテラシー標準:すべてのビジネスパーソンが身につけるべきDXリテラシー
DX推進スキル標準:DXを推進する専門的な人材が担う役割や習得すべきスキル
デジタルスキル標準は汎用性の高い内容になっているため、定義されているすべての役割・スキルがどの企業にもあてはまるというわけではありません。適用する際には、自社が属する産業や事業の方向性を考慮し、それぞれの状況に合わせてカスタマイズすることが大切です。
2-2.「DXリテラシー標準」とは
「DXリテラシー標準」とは、経営層を含むすべてのビジネスパーソンが身につけるべきDXリテラシーのマインドや知識・スキルを定義したものです。なぜDXが必要か、デジタル技術で何ができるかを知ることで、DXがもたらす変革に対して前向きに行動できるようになることが期待されます。
企業・組織においては、DXリテラシー標準に沿った学びに次のような効果があると考えられます。
経営層:自社におけるDXの方向性を決定したり、社員に示したりできる。
事業・業務についての知見があるベテラン人材:DXを推進する人材と協働できるようになり、企業全体のDX化を促進する。
すべての人材:DX化に伴って起きる組織内の変化を受け入れやすくなる。
2-3.「DX推進スキル標準」とは
「DXリテラシー標準」がすべてのビジネスパーソンを対象としているのに対し、「DX推進スキル標準」は専門性を持ってDXを推進する人材を対象に、必要な役割と習得すべき知識・スキルを定義したものです。DX推進スキル標準の活用により、以下のような効果が見込めます。
経営者:自社が優先的に備えるべき人材が明確化される、人材育成に向けた研修コンテンツをブラッシュアップできる など。
DX推進担当者:自分に任された業務に必要な知識・スキルが明確になる、知識やスキル習得に向けてコンテンツを選択し学習できる など。
3.DX推進における「デジタルスキル標準」活用方法

企業がDXを推進するために、まずは全社的なDXの方向性を決めた上で、自社に必要な人材を確保または育成していく必要があります。ここでは、企業がDX化にあたってデジタルスキル標準をどのように活用していけば良いのかを紹介します。
3-1.1.DXを通じて実現したい経営ビジョンを策定する
経営層は「デジタル技術を活用して、自社をどう変えるか」という明確な経営ビジョンを策定する必要があります。その経営ビジョンを実現するための具体的な戦略を立て、推進に必要な組織作りをすることも大切です。加えて人材確保・育成の方針や、デジタル技術活用の方針を決める際にもデジタルスキル標準が参考になります。
3-2.2.DXを推進する人材を明確化する
多くの企業にとって、DX推進スキル標準で定義されているすべての人材を新たに採用するのは難しいでしょう。人材を自社で育成するにしても、すべてのスキルの習得を目指すのは時間やコストがかかりすぎて現実的ではありません。デジタルスキル標準を活用して、自社のDX化にはどのような知識やスキルが必要なのかを明らかにし、優先的に確保・育成すべき人材を決定しましょう。
3-3.3.人材確保や育成施策を検討する
DX推進人材を確保・育成するために必要な仕組みと施策を検討します。企業のDX化を実現するためには、DX推進人材を中心とし、すべての従業員を巻き込んだ変革が必須です。例えばDX推進人材の採用や育成の施策を考えるとき、必要な人事制度を見直すなどの施策を講じることができるでしょう。
3-4.4.DX推進に必要な仕組みや施策を検討する
DX推進は、単に人材を確保するだけでは実現できません。DXリテラシーの全社的な底上げが必要です。経営層がDXリテラシーの重要化に関するメッセージを発信する、全社的な育成施策をまとめるなど、すべての人材がDXを自分ごととしてとらえられるような取り組みを行いましょう。
4.DX推進に必要な主に5つの人材類型

DX推進スキル標準では、企業・組織のDX推進に必要な人材を、5つの「人材類型」として定義しています。5つの人材類型には、業務内容によってより詳細に区分された、合計15の「ロール(役割)」が設定されています。企業によっては1人の人材が複数のロールをカバーしたり、数人で1つのロールを担ったりすることもあるでしょう。それでは、5つの人材類型と各ロールについて紹介していきます。
4-1.ビジネスアーキテクト
ビジネスアーキテクトとは、DXの取り組みにおいて課題解決のための目的を設定し、関係者をコーディネートしながらその実現をリードする人材のことです。
ビジネスアーキテクトは、デジタルを活用したビジネスモデルの設計から、その実現と効果検証までに責任を持ちます。構想段階から効果検証までの間、一貫してチーム形成、タスクの割り振り、関係者間の合意形成といった全体のコーディネイト役を担うため、非常に重要な類型だと言えます。
ビジネスアーキテクトは、以下3つのロールに区分されます。
新規事業の開発
既存事業の高度化
社内業務の高度化・効率化
4-2.デザイナー
デザイナーとは、顧客やユーザーの視点から製品やサービスのありかたをデザインし、ビジネス変革を実現する人材のことです。社会の変化にともない、デザインは単に見た目を美しくするだけではなく、ユーザー視点で新たな価値を創造したり問題を解決する手段としての役割を求められるようになりました。
そのためデザイナーには、新たな製品・サービスをデザインするだけではなく、構想、実装、導入後の効果検証といったDX推進のあらゆるプロセスにおいて、関係者がユーザー視点を見落とさないようにサポートする役割が期待されています。
デザイナーは、以下の3つのロールに区分されます。
サービスデザイナー
UX/UIデザイナー
グラフィックデザイナー
4-3.データサイエンティスト
データサイエンティストとは、データを効果的に活用するための仕組みを作り、運用する人材のことです。社会のデジタル化が進む今、常務上得られる膨大なデータを効果的に活用できるかどうかは、DXの成否にかかわる重要事項です。データサイエンティストに期待される役割はデータ分析だけにとどまりません。データ活用の領域において戦略策定、実装、運用、効果検証といった幅広い業務を担当します。
データサイエンティストは、以下の3つのロールに区分されます。
データビジネスストラテジスト
データサイエンスプロフェッショナル
データエンジニア
4-4.ソフトウェアエンジニア
ソフトウェアエンジニアとは、システムやソフトウェアの開発や運用を通して、製品・サービスを提供するための仕組みを作る人材のことです。新たな製品・サービスを作ったり、業務を変革したりする際に、デジタル技術を使って企画や構想を形にする役割を担います。加えて、運用中のサービスの改善・改良も主な業務の一つです。
ソフトウェアエンジニアは、以下4つのロールに区分されます。
フロントエンドエンジニア
バックエンドエンジニア
クラウドエンジニア/SRE
フィジカルコンピューティングエンジニア
4-5.サイバーセキュリティ
サイバーセキュリティとは、デジタル化によって生じるリスクを抑制するための対策を行う人材のことです。利便性や効率性、コストとのバランスを考えながらセキュリティ対策を主導する役割が求められます。ただし異常監視や原因究明といった高度な専門スキルが必要な場面では、外部のサイバーセキュリティ専門事業者に委託することが現実的です。
サイバーセキュリティは、以下2つのロールに区分されます。
サイバーセキュリティマネージャー
サイバーセキュリティエンジニア
5.DX推進する人材に求められる共通スキル
DX推進スキル標準において、5つの人材類型に共通の必要スキルとして設定されている「共通スキルリスト」があります。共通スキルリストは、5つのカテゴリーと12のサブカテゴリーで構成されています。
また、人材類型の下位区分であるロール(役割)には、それぞれ「共通スキルリスト」から必要なスキルが定義され、スキル項目ごとの重要度も示されています。以下で詳しく見ていきましょう。
5-1.ビジネス変革のためのスキル
「ビジネス変革」スキルには、変革を実現するために必要なスキルがまとめられています。サブカテゴリーと詳細なスキル項目は以下のとおりです。
サブカテゴリー
戦略・マネジメント・システム
個別の製品・サービスごとのDX推進だけでなく、企業・組織全体の改革を主導するうえで重要なスキル。
スキル項目:「ビジネス戦略策定・実行」「プロダクトマネジメント」「変革マネジメント」など全6つ。
ビジネスモデル・プロセス
ビジネスの視点から個別の製品・サービスに関するDXを推進する際に必要なスキル。
スキル項目:「ビジネス調査」「ビジネスモデル設計」「マーケティング」など全6つ。
デザイン
顧客・ユーザーの視点から個別の製品・サービスに関するDXを推進する際に必要なスキル。
スキル項目:「顧客・ユーザー理解」「設計」「検証」など全5つ。
5-2.データ活用のためのスキル
「データ活用」スキルには、主にデータ・AIの理解と活用に関するスキルや、データ分析に用いるAI・データサイエンスに関するスキル、データ活用の基盤となるシステムの設計や運用に関するスキルがまとめられています。サブカテゴリーと詳細なスキル項目は以下のとおりです。
サブカテゴリー
データ・AIの戦略的活用
データ分析結果を正確に理解・洞察するスキルや、データ・AIを使って課題を解決したり新たなビジネスモデルを提案したりするスキル。
スキル項目:「データ理解・活用」「データ・AI活用戦略 」など全3つ。
AI・データサイエンス
さまざまな手法を用いてデータを解析したり、結果を洞察したりするスキル。
スキル項目:「数理統計・多変量解析・データ可視化」「機械学習・深層学習」
データエンジニアリング
データ活用基盤の設計、実装、運用に必要なデータを扱うスキル。
スキル項目:「データ活用基盤設計」「データ活用基盤実装・運用」
5-3.テクノロジーを活用するためのスキル
「テクノロジー」スキルには、デジタル技術を活用した製品・サービスの実装・導入・運用や、特定の領域に対応する場合に必要となるスキルがまとめられています。サブカテゴリーと詳細なスキル項目は以下のとおりです。
サブカテゴリー
ソフトウェア開発
ソフトウェア開発において求められる基本的なスキル。
スキル項目:「コンピュータサイエンス」「チーム開発」など全10個。
デジタルテクノロジー
フィジカルコンピューティングやその他の先端技術といった、高度な領域に対応する場合に求められる応用的なスキル。
スキル項目:「フィジカルコンピューティング」「テクノロジートレンド」など全3つ。
5-4.セキュリティ対策のためのスキル
「セキュリティ」スキルには、DXを推進するために必要な、セキュリティ対策のマネジメントシステムや技術的要素に関するスキルがまとめられています。サブカテゴリーと詳細なスキル項目は以下のとおりです。
サブカテゴリー
セキュリティマネジメント
セキュリティ対策の構築から運用・見直しまでのマネジメントシステムに関するスキル。
スキル項目:「セキュリティ体制構築・運営」「インシデント対応と事業継続」など全4つ。
セキュリティ技術
セキュリティ対策を実現する際に理解しておく必要がある技術的要素に関するスキル。
スキル項目:「セキュア設計・開発・構築」「セキュリティ運用・保守・監視」
5-5.パーソナルスキル
「パーソナルスキル」には、DXを推進する人材が持つべき人間的側面のスキルがまとめられています。サブカテゴリーと詳細なスキル項目は以下のとおりです。
サブカテゴリー
ヒューマンスキル
多様な価値観を持つメンバーをまとめつつ、ゴールへ向かって協働するための対人関係スキル。
スキル項目:「リーダーシップ」「コラボレーション」。
コンセプチュアルスキル
目的の設定や問題解決、意志決定などの場において、物事の本質を理解するための思考スキル。
スキル項目:「ゴール設定」「創造的な問題解決」「批判的思考」など全4つ。
6.人材育成における「DX推進スキル標準」の活用例
DX推進スキル標準に設定されている5つの類型にあてはまる人材を確保するのは、簡単なことではありません。だからこそ、人材育成はDX推進の重要な鍵となります。ここでは、人材育成におけるDX推進スキル標準の活用例を紹介します。
6-1.組織や企業による活用例
組織や企業においてDX推進スキル標準を活用する場合、主体となるのは経営者やデジタル人材の育成・採用担当者(人事部門など)です。活用イメージと具体例は以下のとおりです。
DXの推進戦略策定
DX推進に必要な知識やスキルが、自社ではどの程度不足しているかを可視化する。
デジタル人材の育成や採用施策の作成と実施
自社の研修内容を見直したり、職務記述書(ポジションごとに担当する業務の範囲、必要なスキルなどをまとめたもの)を作成したりする。
6-2.個人の活用例
社内のDX推進プロジェクトにアサインされた人や、今後DX推進人材としてのキャリアを目指す人は、DX推進スキル標準を以下のように活用できます。
指針として活用
DX推進スキル標準で定義されている知識やスキルと照らし合わせて、自分に何が足りていないかを確認する。
研修コンテンツの受講
学習項目例を参考に、自分に必要な知識・スキルに関する研修コンテンツを探して受講する。
6-3.研修事業者の活用例
研修事業者(学習コンテンツを提供する会社)は、DX推進スキル標準に定義されたスキルをもとに、その習得のための多彩な研修コンテンツを展開できます。内容や形式はコンテンツによってさまざまで、各種講座、定着度を確認するテスト、ワークショップなどが挙げられます。
オンライン教育サイト「マナビDX」では、経済産業省の審査基準を満たしたDXに関する講座を紹介しています。「マナビDX」は、経済産業省から委託を受け、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が運営を行うポータルサイトです。
7.「DX推進スキル標準」を活用してDX人材育成を進めよう
DX推進は多くの企業にとってとても重要な課題です。全社的な取り組みのための土壌作りには「DXリテラシー標準」が、DX推進人材の育成には「DX推進スキル標準」が役立つでしょう。
ただし、自社で人材を育成するとなると、何から始めて良いかわからない、DX推進の旗振り役となる社員がいないといったお悩みもあるかもしれません。
株式会社ココエは、DX教育に専門性を持ち、伴走型の支援をしています。前述した「マナビDX」にも、「DXリテラシー講座」を提供しています。DX推進でお悩みの企業様・ご担当者様はどうぞお気軽にお問い合わせください。
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